株式会社設計組織ADH共同代表の渡辺真理(わたなべまこと)さんは、軽井沢や八ヶ岳の別荘はもとより、新津組軽井沢支社を設計いただくなど、新津組にとってご縁の深い建築家です。
今回、海外の3名のお客様の軽井沢別荘を同時進行で行なっている建築現場でお話をお聞きしました。
(新津組建築設計積算本部長の井出、社長の新津も渡辺さんの隣で苦笑いしながら聞いています)

シンガポールの3名のクライアントの別荘を同時進行

建築というものは様々な偶然性の組み合わせだとぼくは思っています。
例えば今回のプロジェクトではシンガポール在住の3名のクライアントがオーストラリアの別荘を売却後、シンガポールとあまり時差のない土地でオーストラリアとはまったく異なった環境の土地を探した結果、日本の軽井沢という土地に白羽の矢を立てたこと、しかも3棟が隣接するような土地を購入されたところからストーリーが始まります。島国日本の中で汲汲としているわたしたちには、世界の中の日本の意味や位置づけを感じさせられるシナリオです。

工事進行中の昨年末にはそのうちクライアントおひとりが家族で日本にいらして、軽井沢で「モックアップ」を視察したあとで、東京に戻り、住まいの主要な家具を予約購入されました。他の2家族は急用で12月には来日できなくなったため、2月に来て家具類を選定するはずでした。ところが新型コロナ禍で予定がめちゃめちゃになりました。しかし、設計も工事監理もオンライン会議を行ない、軽井沢・東京・シンガポールでコミュニケーションを重ねながら進めています。

今回の別荘では外壁にノルウェーの木材を使用しています。これだけ大量に使うのは日本では今回が初めてだと思います。ノルウェーでは一般的な素材ですが、木材に特殊加工を施してあり、通常木材より経年変化に強く、30年間メンテナンスフリーといわれています。健康面ではEU基準を満足する優れた木材です。今回の施工の新しい取り組みのひとつです。

NA オーディオ

photo by Hiro Sakaguchi

新津組との仕事

新津組は「精度の高い施工」ができる会社と認識しています。ですので、いい意味で新津組を挑発するような仕事ができるといいと思いますね。これまで当たった現場担当者の方は誠実で熱心な方ばかりでしたが、ちょっと難しい仕事のほうがむしろファイト精神で頑張ってくれるという感触を持っています(笑)。

現場定例会議も毎回とても時間がかかりますが、事務的な手続きや確認作業で時間がかかっているわけではない。設計提案について現場から施工者の立場からの議論が続くというものづくりのための会議、設計者と施工者ががっちりと向き合う会議です。いうまでもないことですが、そうでないとよい建築は出来ないんですね。設計者と施工者が同じ土俵で納得するまで議論するというものづくりの基本が徹底されているように思います。貴重です。

もちろん工事期間もあるし、予算内に収めないといけない。でも新津組となら、その中で「もう一歩、頑張ることができないか」ができるわけです。それが新津組の一番優れた点だと思います。

SN 夜景

photo by Toshiyuki Kobayashi

「次のレベルの議論」ができるから良い設計になり、良い結果になる。

軽井沢の仕事を初めてやることになった際に昔、磯崎新アトリエ時代の先輩から紹介されたのが新津組との仕事のきっかけです。それが離山のSN邸です。もう20年も前になります。その後、NA邸や茅野QT邸をご一緒することになり、新津組の軽井沢支社も設計させていただきました。

ぼくたちはアトリエ型の小規模設計事務所ですから、仕事量がさほど多いわけではありません。でも、ADHプロパーの仕事以外でも知人の建築家に新津組を紹介したりしています。建築家のほうでも、施工力とやる気を兼ね備えた施工会社を求めています。そういう意味では、間接的なお付き合いは多いことになります。

ほとんどの建築家は施工者と「施工のいろは」から議論するのではなくて、もう1ランク上の議論から入りたいと常に思っていますから。新津組さんを紹介すると「次のレベルの議論」が出来るから、良い設計になるし、良い施工になる。紹介した建築家はみな感謝しています。

人間が毎日使うものだから、住宅は難しい

住宅設計は建築の中でもけっこう難しいものです。住宅は人間が毎日使うものだからですし、住まいには人間存在の本質と近いところがあります。
だから我々も住宅を設計するときは他の建築とは異なったギアを入れる必要があります。住宅設計をちゃんとやっている建築家はみんな同じことを言います。

ほんのちょっとしたことなんですけどね。例えばテーブルや椅子の高さとか、部屋の広さと光の塩梅とか、内部空間のシークエンスと素材の関係とか。
クライアントと親密かつ緊密なコミュニケーションを重ねながら、「住まいの本質的なものとクライアントの望むものをどう重ね合わすことができるか」を試行錯誤する作業をぼくたちは「設計」と呼びます。

チャレンジしてくれる施工会社

施工のレベルが高いのはもちろんなのですが、「ちゃんとチャレンジしてくれる」ところが新津組の長所だと思います。何件か仕事をご一緒しましたが、分かりやすい言い方をすれば、新津組は「ものづくりが好き」で「建築が好き」な会社です。
「ものづくりが好きな人が作る建築」と「建築を商品として考える人」のつくるものは根本が異なります。「商品建築」のほうが一見、見栄えが良い場合もありますから、油断できませんが(笑)、こころのこもった仕事はやがて露見します。

今、世の中には商品としての建築が溢れています。

でも、中には「ものづくりが好きな人が作る建築」もまだあります。とても少ないですが(笑)。作った人も、設計者も、住んだ人もみんなが満足する。設計と施工で立場は違いますが、新津組はそんな建築をめざす志をもった仲間ではないかと考えています。

設計・施工・施主の三位一体の家づくり

建築家としては、設計者と施工者の両方の立場をよく理解し、その両者の間に入って、いい意味の橋渡しをしてくれる人が欲しいわけです。
新津組の井出さんは施工者の立場にありながら、設計者の立場としてもきちんと発言してくれる。「この人の意見は聞いた方がいいぞ」って思える指摘をしてくれる。そういう能力のある人物との出会いは良い建築を実現するためには不可欠です。

われわれ建築家はデザインに頭が行きがちですが、デザインと施工のバランスをとって調整し、アドバイザー的な立場で建築を進めていく。井出さんはそういったスキルをお持ちです。
今回の別荘でも井出さんには初期段階からアドバイザーとして入っていただき、設計・施工・施主の三位一体の関係性を保ちながらプロジェクトに取り組んでいます。

設計・施工・施主の三者で家づくりに取り組み、よいアイデアであれば掬い上げて形にしていくことを目指しています。また、住宅はアフターが大切です。オーナーにずっと気持ちよく住んでいただくためにも、施工面でのアドバイザーは大切な役割だと思います。

新津組とのこれから

新津組は軽井沢・佐久では、施主だけでなく、われわれ建築家から頼りにされる会社になっていると思います。そういう会社が地域にあるということはすごく重要です。
これからも「お互いがお互いを挑発できる」ような関係性でいたいと思います。
馴れ合わないで、「常に一歩先」を考える。そういう気持ちでお互いにやっていくことが重要かなと思っています。そういう気持ちを持っている会社とこれからも仕事をご一緒したいです。

インタビュー後に記念撮影(左から新津悟社長、渡辺真理氏、井出建築設計積算本部長)