そもそも ——
日本の省エネ基準はどうなってる?
1979年に、オイルショックを機に石油依存からの脱却を目指して省エネ法が制定され、翌年に住宅の省エネ基準が制定されました。1992年と1999年に省エネ基準の強化にともなって断熱の仕様が等級4に強化されましたが、あくまでも推奨基準であり、守る必要はありませんでした。
ですから現在ある住宅ストック(中古物件のこと)で断熱等級4を満たす住宅は1割未満(2015年 国土交通省 統計データより)、ほとんどの住宅で十分な断熱が成されていません。
2016年に制定された「建築物省エネ法」で、「外皮(屋根・外壁・床・窓など)性能」に加えて、冷暖房・照明・給湯など設備機器の「一次エネルギー消費量」の基準が新設されました。
8つの地域区分ごとに最低基準となるUA値(ユーエー値)とηA値(イーターエー値)で外皮性能の省エネ基準を設け、さらに電気・水道・都市ガスなど住宅で使われる二次エネルギーを石油・原子力・太陽光など一次エネルギー消費量に換算し、建物全体で評価する省エネ基準が設けられたのです。
しかしながら、日本の一次エネルギー基準はとても低いハードルとなっています。量販店で購入できる安価な家電や、エコキュートなどの一般的な給湯器があれば簡単に達成できる基準であるため、一次エネルギーの根本的な削減にはつながっていません。
2025年度以降、すべての新築住宅に省エネ基準適合が義務づけられますが、基準となる断熱性能は1999年当時のまま。残念ながら先進国で最低の水準です。こうした省エネ基準のほか、ZEH(ゼッチ)、LCCM住宅などがあります。いずれも断熱性能は等級4よりも向上していますが、まだまだ基準は低く、大容量の太陽光発電によって数字上の辻褄合わせをおこなっているのが現状です。
また、UA値や一次エネルギー基準だけでは、住まい手にとって重要となる「どのくらいのエネルギーを使うか(=電気代や灯油代がいくら掛かるか)」を知ることができません。エネルギー消費量を表す指標が冷暖房需要。グローバルでは最も代表的な住宅性能基準ですが、日本国内では基準に含まれておらず、これを計算できる実務者もまだ少数です。
“国の規定する断熱基準では健康や地球環境を守るには不十分である”という認識が広がり始めています。
鳥取県や宮城県など一部の先進的な地方自治体では、独自に民間の断熱基準HEAT20を取り入れ、補助金を交付して高断熱住宅の普及を図っています。
長野県でも2022年度より「信州型健康ゼロエネ住宅(仮称)」制度がスタートする予定です。
こうした動きを経て、2022年には国の省エネ基準に断熱等級5、6、7が新設されることになりました。脱炭素社会の実現に向けて、建築物の断熱性能は今後ますます注目されていくでしょう。
1世界最高峰の外皮性能で冷暖房に頼らない
パッシブハウスは、ドイツの物理学者・ファイスト博士が発案し、1991年にパッシブハウス研究所(略称はPHI)で確立された省エネ基準です。パッシブハウスは屋根・壁・床の断熱性や気密性を高め、高性能な窓と換気システムを取り入れて、徹底的に熱を逃がさない工夫をしています。だから冷暖房に頼らずとも室内の温度や湿度は一定に保たれ、1年中快適に過ごすことができます。
パッシブハウスの断熱性能は、国が定めた省エネ最高基準(※2021年時点)の約2.5倍。多くのハウスメーカーにおける最高性能モデルであるZEH基準と比べても約2.2倍。暖房に使うエネルギー(暖房需要)で見ると、等級4の100に対し、パッシブハウスは15。暖房エネルギーを85%削減できます。
世界でもっとも厳しい基準をクリアした家だけがパッシブハウス研究所(PHI)によってパッシブハウスに認定されます。
2自然のチカラを取り込んでエネルギーシフトに貢献
パッシブハウスは、建てる家ごとにオーダーメイドで設計します。季節ごとの太陽の角度や風向き、周辺環境などを読み取り、開口部や間取りを決めます。南向きの窓が冬の陽光を部屋の奥まで導き、適切な庇が夏の日射をさえぎります。自然の力を最大限に生かしつつ、機械を使う設備は最小限におさえられます。
そもそもパッシブハウスは、「快適・健康な暮らしは当たり前として、気候変動を止めるために家の燃費も良くしよう」との思いから考え出されました。今まで以上に快適に暮らしながら、脱炭素を進めることで、地球と子供の未来に貢献できるのです。
燃費のいい家は地球環境だけでなく家計にも有益です。光熱費はおさえられ、部屋ごとのエアコンや、便座ヒーター、浴室ヒーターや凍結防止帯などさまざまな暖房設備が不要になり、冬用の布団までもが要らなくなります。
家全体の温度ムラがないので結露は出なくなり、空気を汚すカビの発生を抑えることができます。柱や梁などの構造体も一定の温度・湿度が保たれるため、家全体が長持ちします。
建てるときだけでなく、住んでからも。トータルコストで考える大事なお金の話
家は人生最大の買い物です。物理的な大きさや価格だけでなく、利用期間も最大(長)になるでしょう。パソコンのスペックやクルマの燃費と同じように、家の性能や燃費も考える必要があります。寒冷地では住宅が使うエネルギーの約半分が暖房で消費されるため、家の燃費の良さは家計に大きく影響してきます。
建築費を抑えた結果、家の性能が落ちてしまい燃費が悪くなれば、最終的な合計コストは高くなってしまいます。日本のエネルギー自給率は、先進国でも最低レベルの11.8%(2018年度)。今後もエネルギー価格の上昇は避けられないでしょう。燃費の良いエコハウスは、長い目で見れば一番経済的な家なのです。
50年間のトータルコストでは約500万円お得!
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パッシブハウス レベル |
断熱等級5(ZEH) |
断熱等級4 |
50年暖房費 |
879,699円 |
4,691,729円 |
5,864,662円 |
50年暖房費 (値上がり考慮) |
1,557,394円 |
8,300,766円 |
11,521,673円 |
暖房費差額 |
0円 |
3,812,030円 |
4,984,962円 |
暖房費差額(値上がり考慮) |
0円 |
6,744,372円 |
9,965,279円 |
- ※暖房費以外のランニングコストは計算に入っていません。太陽光発電は未搭載としています。
- ※計算条件:各プラン共通:地域区分2。延床面積120m2。エアコン24時間暖房。エアコンCOP2.66。電気代26円/kWh。
- ※各プランごと:暖房需要kWh/m2:断熱等級4=100。断熱等級5=80。パッシブハウスレベル=15。電気代上昇は2050年まで63.4円/kWhへ値上がりし、2051年以降はその価格で据え置きと想定。(経産省総合資源エネルギー調査会基本分科会第43回資料。再エネ100%シナリオの試算による)
3家のすみずみまで快適で長く健康的に暮らせる
断熱・気密・窓性能の低い家は、夏は2階や天井付近、窓辺が暑くなり、冬は足元や窓辺が寒くなります。また、冷暖房器具のある部屋は限られて、家の広さに反して過ごせる場所が狭くなりがちです。
パッシブハウスなら家のどこでも適温・適湿が保たれて、1年を通じて快適に過ごせます。部屋ごとに冷暖房する必要がないため、間仕切りを取り払ったオープンな間取りが実現できるようになり、室内をより広く使えます。
吹き抜けと高性能な窓を組み合わせた開放感いっぱいのプランニングは、建物の奥まで太陽光を届けてくれます。開放された空間は高効率の換気システムと相性が良く、家全体に清浄な空気を届けてくれます。
厚生労働省の調べでは、風呂場で亡くなった人は令和元年が5690人。多くは冬に発生し、ヒートショックによる血圧の急変化や、冷えた身体を熱いお湯で温め過ぎたことによる熱中症が原因とされています。
ちなみにこの年の交通事故による死亡者数は3215人(警視庁調べ)、夏の熱中症による死亡者数は1224人でした(厚生省調べ)。
吉田兼好が「家は夏をむねとすべし」と著したのは昔日のこと。今は冬の家で亡くなる人が多く、低温対策は必須です。冷えは健康の大敵。「寒さはガマンするもの」という日本人特有の思い込みは払拭しなければなりません。
夏も冬も
いつでも快適
お財布にも環境にも
優しい家づくりは
家族の健康・幸せに
つながります。