住宅用太陽光発電の収益を計算してみた

こんにちは、新津組)代表の新津です。
今回は(パッシブハウスとは直接的に関係ないですが)太陽光発電についてです。

太陽光発電、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?
先日、東京都の太陽光発電義務化のニュースもありましたが、
日本ではかなり賛否が分かれているのが実情だと思います。

今回のブログでは、太陽光に関するさまざまな事情はいったん置いておいて、
一般のお施主様が一番気になるところの、
「太陽光発電を住宅に載せるのは、果たして金銭的に損になるのか?得になるのか?」
に絞って書いて行こうと思います。

金額の簡易的な計算を行い、
「元が取れるとしたら何年目になるのか」
「保証期間終了時の最終的な損益はどれくらいになるのか」

等も調べてみました。
金額は全て税込みで表示してあります。

ただし、公的な統計データを前提としてはいますが、あくまで私個人による単純な計算です。
日射量の多い長野県のデータを使った計算なので、他県の場合とは結果が異なります。
一般的な電気契約プランでは日中と夜間で電力単価が違っていますが、この計算では年間を通した平均値を用いています。
定期点検の費用も省略しました。(点検は義務ではなく推奨。3~4年に1回、約3万円かかる。)

記載した収入を保証するものではありません。仮定の話として参考にしていただければと思います。

なお、文中には「儲かる」とか「元が取れる」とか、やや即物的な表現が連続して
お見苦しいかもしれませんが、ご容赦ください。

まずは結論から!

結論から言いますと、太陽光発電システムは設置後10年以内に確実に元が取れます。
そもそも、固定価格買取制度(FIT)自体が「再エネ設備の設置コストを回収できること」を
前提として作られた制度なので、買取価格自体が元が取れるように設定されているのです。

以下、計算の根拠も含め、具体的な金額を交えて解説していきます。

太陽光発電の金銭的な利益とは?

FIT制度が開始された2012年当初は、発電した電力を
電力会社に売却して利益を得ることが注目されていました。
2022年現在は、買取価格が当時に比べ大きく下がっています。
(2012年:42円/kWh 2022年:17円/kWh)

その半面、私たちが自宅で使う電気代は年々値上がり傾向にあります。
太陽光発電で発電した電気をそのまま家で使うこと(自家消費)によって
電気会社に払うはずだった電気代を浮かせることができます。
(中部電力の平均家庭モデル 2012年12月:24円/kWh 2022年9月:34円/kWh)

つまり、
余った電気を売却することによる利益=売電収入 と、
自家消費で節約した電気代=買電節約 の
総額が、太陽光発電によって得られる利益
です。

計算例として、1年間の発電量が10,000kWhで、自家消化率が30%とします。
この場合、自家消費によって電気を節約できる量は3,000kWh。
残りの7,000kWhが余るので、これは売電に回すことになります。
余剰電力の買取単価を1kWhあたり17円とすると、売電収入は7000を掛けて119,000円。
自分で使う電気代が1kWhあたり34円とすると、買電節約は3000を掛けて102,000円。
売電収入と買電節約を足した、221,000円が年間の収入になる、という仕組みです。

太陽光発電の利益額を計算(計算条件)

細かい数字なので、興味のない方は読み飛ばして次の項へお進みください。
計算条件は以下の表の通りです。

設置費用は2022年2月の経済産業省「調達価格等算定委員会」より。
買電節約は中部電力「燃料費調整単価」資料の2022年9月の平均家庭モデルより。
売電収入は経済産業省の価格表(2023年買い取り開始想定)より。
太陽光パネルの発電量は、経済産業省のZEH実証事業による発電量実績データより。
太陽光パネルの出力低下率は、佐久平PH(予定)にも使うQセルズの出力保証資料より。
上の表にはないですが、パネル容量別の自家消費率は国交省のエネルギー削減効果資料より。

電気代の値上がり率は設定するのが非常に難しいのですが、ひとまず年3%としました。
資源エネルギー庁の資料によると、2010→2019年は家庭向け平均で年間2.4%の上昇。
中部電力の平均家庭モデルだと、ウクライナ問題もあり2021年9月→2022年9月で約35%上昇しました。
今の世界情勢からすると、電気代上昇が年間3%はかなり甘い想定かも知れません。

システム設置費用は、メーカーの種類や各自治体の補助金によっては200,000円/kWを切るまで安くなることもあります。
パネル発電量は長野県全体の平均なので、東信エリアに限れば発電効率は上がります。
パネル出力低下も保証対象となるぎりぎりの数値なので、実際の劣化速度はもっと緩やかでしょう。
総じて、上記の計算条件はかなり厳し目(利益が少なく出るような条件)で見ています。

太陽光発電の利益額を計算(1~10年目)


基本条件。
パネルの搭載容量別に計算します。自家消費率は上記の国交省資料を参考にしました。


1年目の結果。
買電節約と売電収入を足した年間合計利益を出し、システム設置費用から引いていきます。
この「設置費残額」がゼロになった時点で、設置費の元が取れたと判断します。
元が取れた後は、設置費残額のマイナス数値分が住まい手の得られる利益額になります。


5年目。
搭載容量の少ないケースから、設置費残額がゼロに近づいて来ました。


7年目。
搭載容量1~3kWでは設置費の元が取れました。


10年目。FIT(固定価格買取制度)が終了する年です。
この時点で設置費残額は全ケースでマイナスとなり、元が取れた状態となりました。
設置費残額のマイナス額=利益額は5kW搭載ケースが最大となっています。

この条件の試算では、
設置後9年目で1~10kW全ての搭載容量ケースにおいてシステム設置費用が回収できる。
という結果になりました。

太陽光発電の利益額を計算(11~25年目)

年数が進むにつれ、この計算の信頼性は落ちていきます。
FIT終了後は年間利益に占める買電節約の割合が増え、
電気代も年々高くなると想定しているため、節約分で得られる利益が増えていく試算です。

ただし、日本全体で太陽光発電が普及し、系統増強やダイナミックプライシング(電力市場の需給によって電気代を増減させる仕組み)の導入が進むと、日中の電気代は限りなくタダに近付くことも考えられます。
その場合は買電節約の利益はほとんど見込めなくなるでしょう。
(日中の電気代を払わなくて良いことには変わりないので、どちらにせよ金銭的にお得にはなりますが)

20年も経てば新技術によって日本の電力システムそのものが激変している可能性があるのです。
繰り返しますが、あくまで仮定の数字としてご覧ください。


11年目。FITが終了したため売電収入が大きく減りました。
搭載容量5kWで比較すると、10年目57,412円に対し、11年目は28,657円と半減しています。


15年目。
多くの太陽光メーカーではシステム全体の保証を15年に設定しています。
保証期間内であればパワコン(パワーコンディショナー:パネルで作った直流電気を家庭で使える交流電気に変換するための機械)が故障しても無償交換の対象となることが多いです。


20年目。
5kWケースでは利益額が200万円を超えました。


21年目。ここでパワコンを交換すると想定しています。
経産省資料では20年に一度は交換するとされ、1台22.4万円が一般的。
この計算では交換費用を1台23万円で、1~5kWでは1台、6~10kWは2台交換。過積載は想定していません。
設置費残額にパワコン交換費を足したので、利益がわずかに落ち込みました。


25年目。
出力保証が切れる時期です。ここから先はパネルの故障は有償での交換となりますが、
実際はここまで経って壊れたら、そのまま載せ続けることが多いのではないかと思います。

太陽光パネルを撤去して処分するケースは弊社でもまだありませんが、
実際に解体処分を行った会社さんによると、撤去費は足場設置からパネル回収までの作業全て含めて25万円程度だそうです。

10kW搭載の場合、この時点での利益額は約374万円。
解体処分費まで考えても十分な利益が残ったと言えるでしょう。

おまけ:FIT開始当初の収益と比較

最後に、FIT制度が開始されていた2012年当時と比較してどうか?
を試算してみます。


条件は以上の通り。赤字部分のみ変更してあります。
システム設置費用が高額で、電気代は安く、売電価格は今より2倍以上高くなっていました。


25年目の結果。
意外にも、2012年開始よりも2023年開始の方が最終的な利益は大きくなりました。
現在の高額な電気代が年3%上昇することにより、買電節約の収入が増えたことが要因ですね。
この結果だけ見れば、太陽光発電はFIT開始時よりも今始めた方が得だと言うことができます。

何度も繰り返しますが、この計算は実際の収入を保証するものではありませんのでご注意ください。
太陽光発電の導入を検討する際の、判断材料のごく一部としてお使いください。

まとめ

  • 仮定だらけの簡易的計算なので鵜呑みにしないこと!
  • 太陽光発電の収益は売電収入と買電節約を合わせて考えよう!
  • 発電システム設置後9年ほどで初期費用の元が取れる!
  • 保証期間終了時はパワコン交換費・解体撤去費を含めても黒字!

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