長野県でZEH義務化!? 住宅事情激変の可能性も

こんにちは。新津組代表の新津です。
先日、衝撃的なニュースが飛び込んできました。
長野県が新築住宅でZEH基準を義務化するというのです!

長野県、省エネ住宅に「国を上回る基準」 ZEH一部要件の義務化を検討 2025年度以降
(信濃毎日新聞 2023.02.16記事より。タイトル画像もこちらから引用)
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023021500860

この制度の影響は極めて大きいと考えられます。
特に軽井沢では、“普通に家を建てることができなくなる”可能性すらあるほどです。

今回のブログでは、
長野県のZEH義務化とはどういうことなのか?
住宅市場にどういう変化が出るのか?
家づくりはどう変わっていくのか?
詳しく解説していきます。

“ZEH”とは?


(国土交通省がつくった広報漫画より)

そもそも「ZEH」とは、「ネット・ゼロ・エネルギーハウス」のこと。
一定以上の省エネ性能と再生可能エネルギー設備の組み合わせによって
年間のエネルギー消費量が正味(ネット)でゼロになることを目指した住宅です。

建物の省エネ性能は、内外の熱の出入りを防ぐための断熱性能がとても重要になります。
住宅の断熱性能を示す指標である「断熱等級」は1~7までが定められていて、
ZEHに必要な断熱等級は5。
上から3番目の水準です。

新築住宅における国のロードマップでは、2025年に断熱等級4が義務化。
2030年までにはZEH水準(断熱等級5+太陽光発電)が義務化されることが決定しています。

“ZEH一部要件の義務化”とは?

長野県の今回の取り組みは、国が2030年までに導入予定のZEH義務化を
何年か前倒しで実施するもの。2025年以降のできるだけ早期を目指しているようです。
ただし、県ではZEHそのものではなく、そのうちの一部要件を義務化します。

国が定めるZEHの要件は
1.断熱等級5以上
2.LED照明や高効率給湯器などの省エネ設備
3.エネルギー消費を正味ゼロにする再生可能エネルギー設備(太陽光発電なら約4kW以上)

このうち3.の再エネ設備については
「県内は太陽光発電に適さない谷間も多い」(県建設住宅課)と、義務化には含まれない模様。
2.の省エネ設備は、今や新築ではごく一般的。ローコスト住宅でも標準になっています。
(個人的には太陽光発電も義務化に入れるべきだと思いますが、それはまた別の機会に)

つまり、「ZEH一部要件」とは1.の断熱等級5を指すと思って間違いないでしょう。
実質的には「断熱等級5の義務化」ということです。

“断熱等級5”とは?

断熱等級5とは具体的にどれくらいの水準なのか見てみましょう。
長野県内の断熱等級については、以下のブログ記事でも書いています。

長野県の寒さはどれくらいなのか?(東信版)

断熱等級4、5、6、7を個別に解説

断熱等級5の断熱性能=外皮性能を表すUA値は、地域別で以下の通りです。
5地域(飯田市など):UA値0.60
4地域(長野市・松本市・上田市など):UA値0.60
3地域(佐久市・小諸市・佐久穂町など):UA値0.50
2地域(軽井沢町・川上村など):UA値0.40

上の記事でも書いていますが、東信エリアはほぼ2地域。
断熱等級5を達成するためにはUA値0.40が目安となります。

これは断熱構成で言うと、
窓:樹脂サッシ + トリプルガラス
壁や床:高性能グラスウールを105mm厚
天井:高性能グラスウールを280mm厚
といったところです。

軽井沢で家を建てることができなくなる!?

県がZEH義務化を行うことで、2地域の軽井沢で新築する場合にはUA値0.40が必須に。
実はこの0.40という数値がとても絶妙なところを突いているのです。

そもそも日本では20年以上もの間、断熱等級4が最高等級でした。
ZEH制度が始まっても、必要な断熱性能の向上はほんのわずか。
そのため日本中に展開する大手ハウスメーカーでは
「全国で等級4を満たすだけの断熱性能」が仕様の上限値
であることが多いです。

その数値とは、UA値0.46
この断熱性能だけあれば、ZEHを日本の人口の約95%(3地域~8地域の居住者)に提供できます。

つまり断熱等級5というものは、大手ハウスメーカーからすると
3地域のUA値0.50は簡単に達成できるが、
2地域のUA値0.40は最高仕様でもかなり難しい、という絶妙なラインなのです。
(絶対に無理ということはないまでも、窓面積はかなり小さくせざるを得ない)

当然、各社とも断熱性を高めた新商品の開発は進めているでしょう。
国全体での2030年ZEH義務化には間に合わせてくるはずです。
ですが、今回の長野県の2025年ZEH義務化は予測できなかったと思います。
この数年のタイムラグが軽井沢の住宅事情に激変を起こすことになるかもしれません。

長野県の新築住宅の工事業者は
50%が大手ハウスメーカー、35%が地場工務店、15%が県内ゼネコン
と推計されているようです。(新建新聞社調べ)

新築の半分を占める大手は上記のような事情があり、断熱性能の向上は難しい。
地元会社もUA0.40を標準にしている会社はそう多くないでしょう。
高断熱に対応できる数少ない業者に需要が集中し、
家を建てたくても建てられない人が増える
ことも十分あり得ます。

上の画像は、今流行りのChatGPTによる県内2地域の人口数の推計。
長野県でも2地域はかなりの少数派なので、
ZEH義務化で大きな問題になるのは東信エリアに限られるかと思います。

ZEHのコストアップは「信州健康ゼロエネ住宅」でカバー


(新建新聞 2023.02.25記事より。)

県はZEH義務化に合わせて、「信州健康ゼロエネ住宅」助成金を拡充します。
現行制度の解説についてはブログ記事にまとめてあります。

「信州健康ゼロエネ住宅」のポイントを解説

新築住宅においては、最大150万円だった補助額が200万円に増額
新築以外でも、建売住宅・中古再販・家屋解体にも補助金が出るように。
拡充は2023年度の予定。詳しいことが分かりしだい、またブログにまとめたいと考えています。

この補助金を使えるのは県内の地元業者での施工に限られるので、
大手ハウスメーカー以外を選ぶインセンティブになるかと思います。

今後の家づくりはどうすればいい?


(国交省のZEH漫画より。国がここまで強い言葉で警告するのも珍しい)

これらを踏まえて、長野県東信地域での家づくりをどう進めていけばいいのか?
今回の締めくくりとして、できるだけ住まい手の目線で書いてみます。
今後の指針になれば幸いです!

もっともNGなのが、義務化開始前に駆け込みでZEH未満の家を建てること
国土交通省も警告していますが、断熱等級5を満たしていない住宅は
2030年には「時代遅れ」になって、資産価値も大きく落ちてしまうことが懸念されます。

2地域の軽井沢を外して、3地域の御代田や佐久市にZEH未満を建てるという選択肢も。
が、これも本質的な解決にはなりません。
「快適で省エネな家を建てる」のが目的であれば、
東信のどの場所でもUA値0.40以上の性能が欲しい
ところです。

ただし世の中は割りと即物的に動くもの。
脱・軽井沢が進んで、隣接した御代田の人気が高まる可能性もあるのではないでしょうか。
今のうちに良い土地の確保に動くのも手かもしれませんね。

大手ハウスメーカーを選びたい場合。
現時点でUA0.40を実現できる会社は限られますので、選択肢も自ずと絞られます。
「とりあえず住宅展示場に行ってみる」という行動は、高確率で空振りで終わります。ネットでの下調べはマストです。
少し調べれば数社のみが候補に残る状態になるでしょう。

長野県を本拠地に、やや広域で活動しているメーカーさんもあります。
県内+新潟県の一部とか、東北信や中南信の単位で活動していて、年間100棟以上を建てているようなイメージでしょうか。
私も各社の詳しい仕様を全て知っているわけではないですが、
平均的に全国展開のメーカーよりは断熱性能を高められるはずです。

もう少し小規模な会社になると(私たちもこの規模ですが)、
宣伝広告も少なく情報を集めるのも大変になると思います。
判断基準のひとつは、ウェブサイトやSNSにUA値などの性能値を載せているかどうか
燃費計算(PHPP・建もの燃費ナビ・QPEX・ホームズ君)をしている会社はレアですが、性能面ではかなり期待ができます。

どの業者でもそうですが、その会社で標準の断熱仕様を大きく上回るような家づくりは失敗の原因になります。
UA0.40を当たり前に建てられるような業者を選ぶことが重要です。
必要な性能値をまず確保した上で、デザイン面や予算面で条件に合うメーカーを探すのが良いでしょう。

人気の会社は初回相談から着工まで数年待ちになることもあります。
これが更に加速することはほぼ間違いありません。
家づくりを検討されている方は、どうか早め早めに動いていただきたいと思います!

まとめ

  • 長野県のZEH義務化は断熱等級5の義務化!
  • 軽井沢(2地域)で断熱等級5を建てられる会社は大手でも少ない!
  • 信州健康ゼロエネ住宅と地元業者の組み合わせを上手く使おう!
  • 判断基準はUA0.40を標準でクリアできるかどうか!
  • 業者探しはできるだけ早く着手すること!

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