ニチコンV2H&日産サクラでオフグリッドに挑戦し、挫折してみた

こんにちは!
新津組 代表の新津です。

私の自宅では蓄電システムとしてニチコンV2H&日産サクラを使っています。
このシステムを使い始める前はこのように考えていました。
「電力消費量の少ないパッシブハウスと蓄電システムを組み合わせることで、電気を買わない生活(=オフグリッド)を実現できるのではないか?」
が、実際に運用してみると、その計画は失敗に終わってしまいました…。
マニュアルには記載されておらず、使ってみないと気づかない仕様がたくさんあったのです。

今回の記事では、オフグリッドが失敗してしまった理由について、V2Hの特徴を紹介しつつ語っていこうと思います。
もしV2Hの導入を検討している方がいらっしゃれば、判断材料のひとつにしていただけると嬉しいです。
今回もぜひ最後までお読みください!

目次は以下の通りです。

・はじめに:V2Hとは何か
・V2HとEVの電力消費量を知るために必要なもの
・V2Hでオフグリッドを実現するのは難しい
・V2Hの充放電ロスは思った以上に大きい
・200V通常充電での充電ロスは?
・V2H本体の待機電力は?
・まとめ:V2Hの経済効果を試算
・おわりに:V2Hの効率的な使い方とは

はじめに:V2Hとは何か

V2H(ブイツーエイチ:Vehicle to Home)システムは、電気自動車(EV)のバッテリーを家庭の電力供給源として活用する技術です。
このシステムを使うと、EVに蓄えられた電力を家庭で使用できるようになります。
日本独自の技術であり、ニチコン、オムロン、パナソニックなど国内メーカー各社から製品がリリースされています。

一般的に言われているメリットとしては主に以下の通りです。
1.自然災害等による停電時でも、EVから家庭に電力を供給することができる
2.日中の太陽光発電による再生可能エネルギーをEVに蓄え、夜間に利用することができる
3.時間帯別の電力メニューを使う場合、電気代の高いタイミングでの買電を避けることで、料金を節約することができる
4.家庭用コンセントを使った200V普通充電に比べ、倍のスピードで充電することができる

私が使っているのはニチコン「EVパワーステーション・プレミアムモデル(VCG-666CN7)」
ニチコンはV2Hの累積シェアで国内トップの約9割を占めているそうです。
EVパワーステーションは最もポピュラーなV2H機器ということですね。

V2Hの設置費用は機器と工事費込みで約138万円ですが、約75万円の補助金が経済産業省から交付されました。
実質の負担額は約63万円ということになります。

私の乗っている電気自動車は日産の「サクラ(SAKURA)」
軽自動車規格での電気自動車として大ヒットを記録しているクルマです。
バッテリーの容量はカタログ上で20kWh。これを蓄電池代わりに使っています。

V2HとEVの電力消費量を知るために必要なもの

ニチコンV2Hはスマホアプリで充電量・放電量を見ることができます。
が、表示はグラフのみとなっていて正確な数値は見ることができず、データを外部に抜き出すこともできません。
そのため、V2HとHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)を連携させることが必要です。
これにより、HEMS側にV2Hの電力データが保存され、データをEXCELでも利用できるようにもなります。
私の環境ではHEMSとしてパナソニックのAiSEG2を使っています。


(AiSEG2のメイン画面。V2Hと連携するとEVのアイコンが表示されるようになる)

EVは、車両コンソールで確認できるのは%表示と概算の走行可能距離のみです。(車種によって違うかも?)
正確なバッテリー残量を知りたい場合は外部ツールを導入する必要があるのです。
私は日産サクラにスキャンツールを取り付け、スマホアプリ「Leaf Spy」でバッテリー残量を実測しています。


(Leaf Spyの画面。EVの残量エネルギーをkWhで確認できる)

EVのバッテリー残量と、HEMS上の充電量・放電量を対比することで、どのくらいの電力量が使われたかを把握することができるようになります。
この時点でかなりハードルが高いですね…!

V2Hでオフグリッドを実現するのは難しい

上記は、2023年11月9日の自宅のHEMSデータです。(測定は30分ごと。列は見やすいように整理済み)
16:30~21:00の間の家庭での使用電力量を、EVからの放電でまかなっています。
が、同時に主幹買電(=電力会社から買ってきた電気)も発生しているのが分かるかと思います。

V2HでEVから住宅へ放電している時は、約50Wの買電が“必ず”発生します。
つまり、V2Hを使う限り、オフグリッドの実現は難しいということです。
この事実には私もかなり驚きました…。

おそらくEVから電力系統への電力逆流を防ぐ仕様になっているのかと思います。
動作テストで主幹ブレーカーを落とした(=停電状態にした)際には、買電は発生せずにEVからの放電のみになっていました。

家を電力系統から完全に切り離し、太陽光発電とV2H、大容量バッテリーのEVを使う場合にはオフグリッドは可能でしょう。
ですが、それを行うと発電余剰分を売電することもできなくなりますので、メリットはほぼ無いと思います。

「放電時に買電が必ず発生してしまう」というこの仕様が、オフグリッドが挫折した最大の要因です。
とは言え、放電時のみ50Wと少量なので、電気代に与える影響も少ないです。私の場合はひと月150円くらいでしょうか。
この動作に気付かずにV2Hを使っているユーザーさんも多いでしょうし、わずかな買電が気にならないのであれば、特に問題にはならないかと思います。
V2Hで本当に問題となるのが、次項で解説する充電・放電ロスです。

V2Hの充放電ロスは思った以上に大きい

V2Hを使う上で最大のネックとなるのが、充電ロス・放電ロスです。
ニチコンWEBサイトには以下のように注意書きがあります。
「直流から交流、交流から直流への変換時には変換ロスが発生致します。」
「また、充放電時には、車両側でも最大数百Wの電力を消費します。」

「数百Wの電力量」だと、放電時の買電量と比べると桁が違いますね。当然電気代への影響も大きくなります。
充放電ロスの実態を把握することが、V2Hを使う上でとても重要なポイントなのです。

実際にどれくらいのロスがあるのか、HEMSを使って調べてみました。
上の画像は2023年11月11日のHEMSデータです。

日中の太陽光発電でEVを満充電時した状態で、バッテリー残量は16.60kWhでした。
(車両コンソール上でバッテリー残量100%の状態で計測していますが、LeafSpyでは残量87.2%となっていました)

16時から家への放電を開始し、放電終了した21時時点でのバッテリー残量が12.10kWh。
4.50kWhの電力量をEVから家へ放電したことになります。

これに対して、住宅側でバッテリーから受けた電力量は16時~21時で2.78kWhでした。
4.50kWhと2.78kWhの差分、1.72kWhが放電ロスです。約38%の電力が消えてしまったということですね。
時間あたりのロスは310W。この日の我が家は放電中の消費電力は平均650W。ロスを含めると消費電力がなんと約1.5倍になってしまいます。

2023年11月9日から12日までの充放電ロスをまとめた表です。
平均すると、充電と放電を1度行うごとに2.46KWhのロスが発生することになります。
時間あたりのロスは586W。充電or放電でV2Hが動いている間はこの量の電力が家庭消費分に上乗せされる、ということですね。

「EVから放電すると、すぐにバッテリーが底をついてしまう」
「家庭で使った電力量よりも、かなり多くバッテリーを使っている」

という形でロスに気付くユーザーさんも多いかと思います。

放電を長時間・低出力で行うほどロス率が増加する傾向にあるようです。
高断熱住宅は冷暖房の電力消費が低下して「長時間のトロトロ運転」になりがちですが、このような使い方はV2Hの効率を低下させることに。
「V2Hと高断熱住宅は相性が悪い」ということも言えます。

太陽光発電で充電し夜間に放電するというのがV2Hの一般的な使い方でしょうか。
その場合「太陽光発電で売電できる量が少なくなり売電収入が減る」という形で影響が出てきます。
V2Hを長時間運転することによって、「買電量は減るが売電量がそれ以上に減少するため、月の収益はむしろ悪化する」という可能性すらあるのです。
※記事の最後で、具体的な金額を試算しています。

200V通常充電での充電ロスは?

上の項で解説した表は、V2Hを使って太陽光発電の余剰分を充電したケースでした。

では、
・V2Hを使い、電力会社から買電して充電した場合
・V2Hを使わず、家庭用コンセントの200V充電を使い、買電して充電した場合

はどうなるのでしょうか。

結論としては、これらの方法でもやはりロスが発生してしまいます。
太陽光発電による余剰充電でも、電力系統から買電しての充電でも、通常充電でも急速充電でもロスが出る、ということです。

充電時のロスについてまとめました。
短時間・高出力で充電するほどロスは少なくなる傾向がありますが、平均ではおおむね26%ほどの電力が失われるようです。
「電気自動車への充電には充電方式に関わらず一定量の損失が発生する」と理解しておくのが良さそうですね。

V2H本体の待機電力は?

V2Hは、充電や放電をしていない待機状態でも電力を消費しています。
HEMSから推計したところ、待機電力は約15Wでした。

ひと月で約10kWh、電気代で300円~400円程度でしょうか。
充放電ロスに比べると少ないですが、決して無視はできない金額ですね。
待機電力のコストを無駄にしないようにV2Hを有効活用したいものです。

まとめ:V2Hの経済効果を試算

上で書いた「買電量は減るが売電量がそれ以上に減少するため、月の収益はむしろ悪化する」可能性について試算してみます。

17時から翌3時までの10時間、EVから住宅へ放電すると仮定します。
この間の家庭の電力消費は1046Wです。(自宅の2024年3月18-19日の実績より)
放電ロスを466Wとすると、家庭消費分と合わせて1512W。
つまり、放電に必要なEVバッテリー量は、10時間で15.12kWhです。

バッテリー15.12kWhを太陽光余剰で充電することを考えます。
充電ロス率を平均で28.02%とすると、充電するのに必要な電力量は21.005kWhとなります。

放電によって、買電量を9.96kWh節約することができました。※(電力消費1046W-逆流防止買電50W)×10時間
充電によって、本来得られるはずだった売電量が21.005kWh失われました

電気代の単価を35円/kWhとすると、節約額は348.6円です。
売電単価を17円/kWhとすると、失った売電収入は357.1円です。
V2Hの待機電力は1日あたり0.36kWh。上記単価で12.6円の支出となります。
差し引きで、1日あたりの収支はマイナス21.1円でした。
V2Hを導入したことで、むしろ損をする結果になってしまいました。

もちろん、住宅の電力消費量や電気代単価、売電金額は各ご家庭でまったく異なります。
さらに、この試算はV2Hの苦手な長時間トロトロ運転を行った場合のものです。
ですがV2Hで経済的なメリットを出すことの難しさをお分かりいただけたのではないでしょうか。

おわりに:V2Hの効率的な使い方とは

今回の記事は以上となります。
V2Hの充放電ロスや待機電力、それを踏まえた経済的メリットについて解説しました。
実に扱いの難しい機器ですね…!

V2Hを効率的に使うポイントは
・充電や放電はできるだけ短時間で行う
・買電単価、売電単価によって充放電する時間帯を調整する

ということになります。

次回の記事では、このポイントを踏まえたうえで私が実際にV2Hをどう設定・運用しているのかについて書きたいと思います。
(せっかく高価な機器を購入したので、どうにか有効活用したいという一心です…)

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次回の記事もお楽しみに!

新津

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