パッシブハウス専用の計算ソフト「PHPP」とは?

こんにちは。新津組 代表の新津です。

PHPP(パッシブハウス・プランニング・パッケージ)。
パッシブハウスの設計の基本となる、熱環境計算ソフトです。
今回はそのPHPPについて書こうと思います。

ドイツのソフトで日本の気候を評価できるのか?

PHPPはマイクロソフトのエクセルをベースとし、セルに断熱材の種類や厚さ、
窓のサイズや軒や庇の出など、様々なパラメータを打ち込むことで性能値が自動で計算されます。

パッシブハウスの基準としては冬の暖房負荷(暖房需要15kWh/㎡a以下)が有名です。
ドイツの冬はちょうど長野県平均くらいの寒さですので、冬の場合は問題ないですね。
多くの方が疑問に思うのは、高温多湿の日本の夏に対応できるのか?というところだと思います。

実は、パッシブハウス設計時に計算される性能値のひとつとして、
夏のオーバーヒート頻度や室内湿度などの「夏の快適性」もチェック対象になっています。
実際に設計を行ったことのある人以外にはあまり知られていないのではないでしょうか。

夏の夜に窓を開けて冷えた外気を取り込むこと(=ナイトパージ)も考慮に入れることができます。
その場合も外気の湿度が高すぎると不快になるため、逆効果にならないように設計します。
ドイツ発祥のプログラムでありながら、温暖湿潤な気候にも十分に対応できるようになっているのです。
対して、日本では建物設計時の湿度基準は存在しませんし、当然それを評価するプログラムもありません。
PHPPを使った方が、冬だけでなく、夏も快適に過ごせる建物に近付くのではと思います。

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パッシブハウスの室内湿度推奨値:12g/kg=室温25℃の時の相対湿度60%
パッシブハウスのオーバーヒート頻度:1年間に室内温度が25℃を超える回数を10%以下にする
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※「窓を締め切ることが前提」というのはパッシブハウスに対する誤解のひとつですが、
ナイトパージの例のように、快適な空間に近付けるためには窓開け換気も積極的に行っていきます。

机上の計算で実際の建物のエネルギー消費が出せるのか?

PHPPは熱環境シュミレーションとして30年以上の歴史があり、
建築済みのパッシブハウスの温度・湿度・換気風量などを測定し、
ソフトへのフィードバックとバージョンアップを繰り返してきました。
2021年時点での日本版PHPPのバージョンは9となっています。

パフォーマンスギャップ、つまり設計値と実測値の差がほとんど見られないことが特徴です。
そのため、家を建てる前から電気代やガス代がどれくらい発生するかの予測が可能となっています。
住まい手の暮らし方によって当然差異は発生して来ますが、
精度の高さは同種のシュミレーションソフトの中で最も優れていると言われています。

2021年1月の全国的な電力逼迫を例に上げるまでもありませんが、
日本のエネルギー事情は常に危機的な状況であり、今後も電気代・燃料代の値上げは避けられないでしょう。
2021年5月の経済産業省の報告書では、2050年に再エネ100%を実現した場合、
一般家庭の電気代が今より2.4倍も値上がりするという衝撃的なものになっています。

住宅を建てる際は、建築費というイニシャルコストだけでなく、
電気代や燃料代などの長期的なランニングコストも含めた総コストで考えることが望ましいですね。
高精度のPHPPによる設計は、ランニングコスト算出の大きな助けとなります。

太陽光発電以外の再生可能エネルギーが使えるのか?

日本では住宅の再生可能エネルギー=太陽光発電ですが、
寒冷で日射の少ない北欧などの国では薪やペレットなどの木質バイオマスが主体になっています。
バイオマスを発電ではなく給湯や暖房などの熱需要をカバーするために使っていることがポイントです。

そのため、PHPPでは太陽光発電や太陽熱温水はもちろん、
薪ボイラーやペレットボイラー、地域熱暖房や地中熱ヒートポンプ冷暖房など、
多種多様な再生可能エネルギーを計算対象にすることができるのです。

佐久平パッシブハウス(仮称)でもペレットボイラーを給湯設備として使いますが、
PHPP以外の国内の熱環境計算ソフトではそもそもバイオマスの入力欄がありません。
カーボンニュートラルの面でも、冬の熱需要を効率的にまかなうという面でも、
木質バイオマスストーブ・ボイラーは極めて合理的だと思います。
国交省Webプログラムを含む、他ソフトの今後の発展に期待したいと思います。

余談ですが、薪やペレットの使い過ぎによる森林資源の枯渇を防ぐためか、
バイオマスの一定以上の利用はPHPPの計算上不利になるようプログラムされています。
再エネのマイナス面までもしっかり考慮されているのが凄いですね。

まとめ

  • PHPPは日本の蒸し暑い夏にも完全に対応!
  • 事前に建物の燃費がほぼ正確に分かる!
  • 薪やペレットなどの森林資源の活用にも最適!

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