パッシブハウス施工日誌11 ~屋根工事編~

こんにちは!
新津組 代表の新津です。

私の自宅=パッシブハウス佐久平(認定申請予定)の工事レポート第11回
今回は屋根工事編です。

屋根は、住宅によって非常に重要なパーツ。
意匠性・防水性・断熱性・耐久性・日射遮蔽性・再生可能エネルギー設備の搭載…。
ひとつのパーツがとても多様な機能を担っています。

数多くの要素を成立させるために様々なやり方が考えられます。
ひとつの解決策として、この現場では「二重屋根工法(通気下地屋根構法)」を採用することにしました。
施工日誌、ぜひ最後までお読みください!

過去の施工日誌は以下のリンクよりご覧いただけます。

施工日誌01 概要編
施工日誌02 地盤調査編
施工日誌03 地盤改良編
施工日誌04 鉄筋工事編
施工日誌05 基礎・コンクリート工事編
施工日誌06 基礎断熱・発泡ガラスボード編
施工日誌07 土台敷き・基礎内断熱編
施工日誌08 建方(建前)編
施工日誌09 充填断熱編
施工日誌10 付加断熱編

屋根一重目:構造用合板の施工

屋根工事は上棟の直後から始まります。
建物内部を雨に濡らさないように、最初の合板貼り&ブルーシート養生はスピーディに!
その後、天気の様子を見ながら仕上げを進めていくのです。

屋根の全体はこのような形。
切妻屋根と片流れ屋根を組み合わせた複雑な形状となっています。

まずは最も面積の大きい母屋の大屋根に、構造用合板24mm厚を貼りました。
柱・梁を厚みのある合板で囲み、ひとつの頑丈な箱を作るイメージですね。

構造用合板で耐力を高める手法は北米の「枠組壁工法(ツーバイフォー)」が代表的。
軸組(柱や梁)で支えるのが日本の「在来軸組工法」ですが、近年は壁工法の長所を取り入れ、面材耐力壁(合板)と軸組を組み合わせて使う工法が普及しています。

構造用合板同士や梁の取り合い部は気密テープで塞いでいます。
この建物のメインの気密層は室内側の調湿気密シートですが、合板でも気密を取ることで全体の性能を高めています。
気密ラインを複数構築することで、将来的にどちらか片方が劣化・破損しても家そのものの気密性能は大きく落ちなくて済むかもしれません。

その他の屋根にも構造用合板&気密テープを施工。
屋根の形ができてしまえば、上からブルーシートで覆うのも楽になります。
雨に降られてもひとまず安心な状態になりますね。

屋根一重目:透湿防水シートの施工

構造用合板の上に、透湿防水シートを貼り付けます。
壁と同じくタイベックシートを使用。
屋根用タイベックは上に乗っての作業になるため、滑り止め加工がしてあります。

付加断熱工事でも解説しましたが、透湿防水シートは外側から入ってくる雨水は通さずに、内側から出てくる湿気は逃がすという性質があります。
建物に使っている木材にもわずかに水分は残っていますので、透湿機能によって湿気をこもらせない効果が期待できます。

屋根シートは壁シートと重ね合わせて、連続した防水層を構築します。
建物全体を透湿防水シートで覆うことで、防水機能を高めつつ、壁内の湿気放散もできるようになるのです。

ここまでに作った構造用合板 + 透湿防水シートがひとつ目の屋根。
この上に垂木を敷いて、更にもうひとつの屋根を作っていきます。

屋根二重目:垂木と付加断熱の施工

透湿防水シートの上に垂木を施工します。
この通気垂木は外壁の通気胴縁と同じような役割ですね。
構造用合板と屋根材とを繋ぎ、垂木間に空気を通して乾燥状態を保つのが目的です。

北総研のBIS(断熱施工技術者)マニュアルによると、今回のような屋根断熱を使う場合は、通気層を設けることが必須となっています。
通気層の厚さは30mm以上とし、雨水の侵入に配慮しつつ、通気層の端部を外気と通じるようにすることが必要です。

通気垂木120mm厚の間に、付加断熱のネオマフォーム60mm厚を施工。
差し引きの60mmが通気層となります。
屋根形状の関係で通気層が途切れてしまう部分は、垂木に欠き込み処理をしたり穴を開けたりして、空気の流れを塞がないようにしています。

充填断熱工事の解説でもお話した通り、構造用合板の内側にはグラスウール400mmが吹き込まれています。
熱伝導率0.020[W/(m・K)]のネオマフォームを60mm、0.035[W/(m・K)]のグラスウールを400mm。
これを熱伝導率0.038[W/(m・K)]のグラスウール16Kで換算すると548mmの厚さになります。
パッシブハウスならではの断熱厚ですね!

なお、屋根の付加断熱の工法としては垂木間ではなく、構造用合板の上全面に断熱材を敷き込み、その上に垂木を乗せる、というパターンもあります。
今回の工法にした理由は2つ。

1つ目は、垂木を合板に密着させたかった(ボード状の断熱材を間に挟むよりも安定性が増す)こと。
日射遮蔽の関係上、軒の出を長くする必要があり、軒を支える垂木も大きくなりました。
(軒の出は場所により異なるが、900〜1600mmほど)
大寸法の垂木をしっかり固定する必要があったのです。

もう1つは、充填断熱の厚みがあるため、付加断熱が垂木間であっても断熱性能は十分に保たれる計算になったこと、です。
厚さ(高さ)120mmの垂木は、通気層を確保しつつ断熱材を入れるのにちょうど良いサイズでもありました。

屋根二重目:野地板の施工

垂木の上に野地板(屋根材の下地材)を施工します。
こちらは厚さ12mmの構造用合板です。

横から見るとこんな感じ。
防水シート、通気垂木、断熱材、通気層、野地板の位置関係が分かりやすいですね。

屋根二重目:アスファルトルーフィングと屋根材の施工

写真が少し見づらくてすみません。
屋根材に使うのはガルバリウム鋼板。写真は裏側が見えた状態です。

ガルバ板の裏側に薄い断熱材が貼り付けられているタイプ。
が、屋根材単体の断熱性能は548mm断熱の前には誤差…。
価格、色、サイズで選択した商品に、たまたま断熱が付いていた、という感じです。

ガルバ屋根は軽いのが長所。
重さは陶器瓦屋根の10分の1。スレート屋根の4分の1です。
太陽光発電パネルを載せる際も、屋根に穴を開けないキャッチ工法が可能です。

比較的安価で、製品の種類も多く、耐久性に優れるのがガルバリウム屋根。
軽井沢の高級別荘でも数多く使われる優秀な部材なのです。

写真でガルバ屋根材の下に見える黒いシート。
これは野地板に貼られたアスファルトルーフィングです。
透湿性は無いものの、耐久性・防水性がとても優れている「改質ゴムアスファルトルーフィング」を使っています。

改質ゴムアスファルトルーフィング(ゴムアス)とガルバリウム屋根を密着して施工することで、防水性・耐久性抜群の屋根となります。

通常の雨ならばこの屋根だけでも大丈夫。
横から猛烈な雨が吹き込んだり、想定外の事態でこの防水層が突破された場合には、下側の透湿防水シートで雨漏れを防ぐのです。

二重屋根の完成

野地板 + ゴムアス + ガルバ材によるふたつ目の屋根が完成しました。

二重の屋根を作り、透湿機能付き通気層で排水と乾燥を促進し、躯体を最良の状態に保ち続ける。
これが「二重屋根工法」「二重屋根通気工法」と呼ばれる施工法です。

国交省の国総研では「通気下地屋根構法」と呼ばれ、建物を長持ちさせる工法として紹介されています。

通気下地屋根構法の設計施工要領(案)

棟換気部材の施工

通気層の端部は、雨の侵入を防ぎつつ空気はたくさん通すという機能が必要に。
その部分には専用の換気部材を取り付けていきます。
上の画像は屋根の一番上の部分(棟)。
換気部材を付けられるようにゴムアスルーフィングを露出した状態にしてあります。

国総研の通気ガイドラインより画像を引用。
「屋根通気層を効率良く機能させるためには、棟全体に棟換気材を設けることが望ましい」とあります。
このガイドラインに従い、今回の現場では棟換気を可能な限り長く取っています。

取り付けた棟換気材「リッヂベンツ」
画像は日本住環境さまのウェブサイトから引用させていただきました。
雨の吹込みを防ぎつつ、多くの換気量を長期的に保持できます。

棟換気部材を取り付け、屋根材で棟をカバーして完成です。

下屋換気部材の施工

通気層の出口は棟だけではありません。
下屋(母屋に取り付く屋根)の場合も、換気材を忘れずに取り付ける必要があります。
(上の画像も日本住環境さまからの引用です)

足場の影がかかって見えづらいです、すみません!
下屋の換気材を施工するとこんな感じになります。

軒天換気材の施工

通気層の出口側が施工できたので、今度は入口側。
建物全周囲の軒裏(軒天)に換気部材を仕込み、全ての屋根通気層に空気が通るようにします。

画像は城東テクノさまの防虫網換気材
本来は壁通気用ですが、サイズが薄く黒色で目立ちにくいのが利点。
弊社では軒天換気材によく使っています。

棟換気の施工から数ヶ月あと、壁の付加断熱が完了した段階で軒天工事に入ります。
黒いラインが軒天換気材。屋根板金に沿うように設置しています。

軒天を別角度から見たところ。
壁の通気層から上がってきた空気と、軒天換気材から入った空気が合流し、屋根の通気層から抜ける形になります。

透湿防水シートが屋根と壁とで重ね合わされているのも見えますね。
防水層がばっちり構成されています。

軒天の施工

軒天の下地を組んだあと、杉板を貼り、塗装仕上げを行います。

通常、塗装は板を張った後に行います。
が、実(さね:組み合わされる凹凸)の部分だけはあらかじめ塗っておきます。

こうすることで、将来的に木の収縮で板の隙間が空いてきたとしても、未塗装部分が出ることなくキレイな見た目が保たれるのです。

軒天を貼り終わりました!
塗装はまだですが、この時点でも十分に美しい仕上がりですね。

勝手口上の軒天。
お客さまの目に触れないのが勿体ないくらいの、とても良い完成度です…!

屋根・軒天工事の完了

これで屋根・軒天工事が完了しました!
写真は大屋根の完成形。

屋根勾配は5.5寸(28.8度)で、やや急勾配といったところ。
これは、太陽光発電の効率を考慮して決定した傾斜角です。
一般的に、年間の発電効率を最大化するためには、パネル角度は30度前後が最適とされているようです。

急勾配屋根は建物を正面から見た時の印象が強くなるので、意匠面の効果もありますね。

おわりに

今回も長くなってしまいました…!
これで屋根工事のリポートは終了となります。

付加断熱や通気まで含めた屋根工事の様子は普段目に付きづらく、ネット上の情報量も少ないかと思います。
この記事が何かの参考になれば嬉しいです。

ではまた、次の施工日誌でお会いしましょう。
最後まで読んでいただきありがとうございました!

新津

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