パッシブハウス施工日誌10 ~付加断熱編~

こんにちは!新津組)新津です。

今回の記事で紹介するのは「付加断熱」
その名前の通り、建物の外側に断熱を付け加えていく工法です。
一定レベル以上の断熱性能を出すにはこれが必須!

前回の充填断熱工事と同様に、実際の施工写真を見ながら解説していきます。
今回も最後までお付き合いください。

過去の施工日誌は以下のリンクよりご覧いただけます。
施工日誌01 概要編
施工日誌02 地盤調査編
施工日誌03 地盤改良編
施工日誌04 鉄筋工事編
施工日誌05 基礎・コンクリート工事編
施工日誌06 基礎断熱・発泡ガラスボード編
施工日誌07 土台敷き・基礎内断熱編
施工日誌08 建方(建前)編
施工日誌09 充填断熱工事編

付加断熱の構成図

上が壁面の構成図。今回はこのうち、
・増し貼り断熱 フェノールフォーム t45 + 60
・透湿防水シート
・通気胴縁 t18

を施工していきます。

図面ではフェノールフォームの外側部分の厚さを60mm(t60)と設定していましたが、
実際の現場での施工では、厚さを66mmに変更しています。
この変更の理由について、後ほど詳しく説明いたします!

付加断熱の概要

まず、「付加断熱」工法の概要を解説します。
木造住宅の断熱工法は主に3つに分類されます。
「充填断熱」「外張り断熱」、そして「付加断熱」です。
充填断熱は内断熱とも呼ばれ、外張り断熱は外断熱とも称されることがあります。

住宅業界では、2011年ごろに「外断熱ブーム」とも言える現象が起こりました。
「断熱は内か外か」という議論も巻き起こされましたが、
技術の普及が進む中で「断熱は内も外も重要である」という認識が徐々に主流となっています。

つまり「付加断熱」は、内断熱(充填断熱)と外断熱(外張り断熱)を同時に行うということですね。
もともとは寒冷地・北海道が発祥ですが、近年では本州の温暖地でも見られるようになりました。

付加断熱のメリット・デメリット

【メリット】

1.高い断熱性能:
付加断熱は、充填断熱と外張り断熱を組み合わせることで、断熱厚を大幅に増やすことが可能です。
北海道「北方型住宅」の推奨である壁断熱厚300mmも実現できるようになります。

2.熱橋の抑制:
建物全体を覆う付加断熱は、柱や梁が熱橋となるのを防ぐ効果があります。
付加断熱で家全体がカバーされることで、構造木材が急激な温度変化にさらされることが少なくなります。(温度勾配の緩和)
これにより、結露のリスクを減らし、構造体の長寿命化が図れます。

【デメリット】

1.コストと工期の増加:
断熱材の追加により、建築費用や工期が増加する可能性があります。
毎日の雨養生(ブルーシートなどで保護)や、雨や雪の天候を避けた施工を考慮すると、さらなるコストが掛かることもあります。

2.施工の難しさ:
付加断熱は、特に長野県ではまだ一般的でなく、経験豊富な設計士や施工業者を見つけることが難しい場合があります。
外装材の重量、建築地の防火制限、断熱厚に応じた留め具の選定など、付加断熱を適切に施工するためには経験が不可欠です。

付加断熱の厚さ


(現場に搬入されたネオマフォーム。家全体に使う量としてはごく一部)

付加断熱には、施工性の良さからボード状の断熱材が一般的に使われます。
今回は、フェノールフォーム系の断熱材として「ネオマフォーム」を使用します。
この断熱材は、厚さあたりの熱抵抗値が高く、耐熱性・難燃性に優れ、経年劣化しにくいです。
流通量も多く、職人さんも取り扱いに慣れている材料です。
現場では「ネオマ」と略して呼ばれ親しまれている(?)お馴染みの商品ですね。

充填断熱に繊維系のグラスウール、付加断熱に発泡プラスチック系のネオマフォームを使用する組み合わせ。
これは高断熱工法の一般的なパターンですが、今回の施工方法や断熱厚はやや特徴的です。
佐久平PH(予定)では、ネオマフォームを45mmと66mmの2層構成で、合計111mm厚にします。

今回の熱伝導率は、グラスウールが0.035[W/(m・K)]。ネオマフォームが0.020[W/(m・K)]。
住宅でよく使われるグラスウール16Kの0.038[W/(m・K)]で換算すると、壁の断熱厚は約340mm。
北海道・北方型住宅の推奨値である300mmを越える高断熱となりました。

厚さ111mmの理由は?


(ネオマフォームの厚さ一覧。旭化成建材 neoma規格表より)

なぜ111mmという中途半端な厚さなのか?
PHPP計算の結果、パッシブハウス基準には外壁ネオマフォームが約100mm必要と出ました。
ネオマフォームは製品規格が最大100mm。
1枚で張っても良かったのですが、そうしなかったのには理由があります。

ひとつめの理由は、100mm1枚張りだと外壁材の重量に制限が出てくること。
ネオマフォームの100mm施工マニュアルには、「外装材の重量は25kgまで」と記載があります。
今回使用するサイディング材は、1枚あたりの重さが約40kg。
100mm1枚張りでは外壁の重さを支えきれない可能性が高いです。

ふたつめの理由は、これが弊社初のパッシブハウスであったこと。
気密測定の結果で暖房需要の結果も変わるので、認定基準に届かなくなるというリスクは回避したい。
そのため、付加断熱の厚さを100mmより増やして余裕を持たせることにしました。

以上の理由を踏まえ、ネオマフォームを2層構成にし、1層目に入れた下地で外装材を支える工法に。
ただし、1層目の木下地は熱橋にもなってしまう。なので、ここは薄くして45mmに。
2層目の断熱材は60mmと厚めに取り、1層目を木下地ごと覆うことにします。

1層目に木部が入ることで断熱性能は若干ですが低下します。
更に保険を掛ける目的で、断熱材の発注時に2層目ネオマフォームを60mmから66mmへと変更。
最終的に45mm + 66mm で付加断熱工事が行われました。

付加断熱の施工:1層目

断熱材を張り付ける準備として、まずは下地となる木桟(もくさん)を取り付けます。
壁面部分の木桟は厚さ45mm。1層目のネオマフォームに合わせた厚さに。
土台付近の木桟は厚さ111mm。2層分のネオマフォームを支えられるようにしています。
下部の木桟は土台水切りの取り付け下地としての役割もあります。

木桟は熱橋となる可能性があるので、温熱シュミレーション(PHPP)で計算を行います。
壁面の木部率の影響や、土台回りの熱橋による結露リスクを解析。
各所に問題がないことを確認しつつ、下地のサイズや取り付け位置を決定していきます。

1層目の施工が終わった状態。
断熱欠損が出ないように隙間なく詰めているのが分かりますね。
1層目は、外断熱用の固定座金で構造用合板に固定しています。
(固定座金の商品名は“つめぴたッ”という面白い名前)

勝手口の開口部から見た様子。
土台木桟と基礎コンクリートの隙間には防蟻ウレタンを吹き込み、熱橋とシロアリ対策をしています。

付加断熱の施工:2層目

66mmのネオマフォームを、1層目の上から張り付けていきます。
家全体が断熱材に包み込まれていきます!

固定座金を使って1層目の下地に留め付けしています。
屋根の付近に、屋根用の透湿防水シートが伸びてきてるのが見えますね。
次の工程は、付加断熱を透湿防水シートで覆っていくことになります。

透湿防水シートの施工

今回の現場で使う防水シートは「デュポン タイベックシルバー」
日本で最も有名な防水シートではないでしょうか?
以前は「タイベックハウスラップ」という商品が一般的でしたが、
2022年頭からは、より耐久性に優れた「タイベックシルバー」が標準品となりました。

透湿防水シートは、外側から入ってくる雨水は通さずに、内側から出てくる湿気は逃がす、という性質を持ちます。
佐久平PH(予定)ではこのシートで建物全体を覆う形をとっています。

防水シート専用の施工器具。
これを使うと大工さんが1人でもシートを貼れるようになり、施工性が大幅に上がると言います。

透湿防水シートを施工した状態。
屋根用シート(タイベックルーフライナー)と連続させることで、防水層を途切れなく繋いでいます。
防水層の外側は通気層。これも壁と屋根を繋ぐように施工するのがポイントです。

通気胴縁の施工


(国土技術政策総合研究所 木造住宅外皮の換気・通気計画ガイドラインより)

防水シートの外側には、空気の通り道(通気層)を設けることがとても重要!
国土交通省 国総研(国土技術政策総合研究所)の資料がとても分かりやすいので引用します。
「躯体内の換気及び通気の目的は、外部からの雨水や構造材の水分、そして室内からの水蒸気などを外気に放出し外皮内に湿気を滞留させないようにして木材の乾燥を促すことである。
特に、通気層を設けることにより一次防水層である外装材から浸入する雨水を外皮の外へ逃がし、躯体内への雨水浸入リスクを軽減することが最も重要な役割である。」

通気層は木材を乾燥状態に保つ働きがあり、建物の長持ちに繋がるということですね。

「通気胴縁」を施工した状態です。
厚さ18mmの板材を張り付けていて、その18mmの空間が通気層となります。
空気は温度差によって下から上へと動く(自然対流)ので、その流れを妨げないことが重要。
土台付近から入った空気は、壁面を登り、軒裏に入って、屋根の棟から抜けていきます。

通気胴縁は付加断熱1層目の下地にビス止めされています。
今度はこの通気胴縁が外装材の下地となり、重い外壁でもしっかりと支持してくれるのです。

通気胴縁の下端。
土台横の木桟には土台水切りが取り付けられました。
透湿防水シートを土台水切りの上にかぶせることで、水分は水切りの上を通って外に流れていきます。
土台が水に濡れることを防ぎ、家の耐久性を高める部材です。

通気胴縁の下端を上から見たところ。
通気層の入口には防虫網を取り付けてあります。
とても小さくて地味な部材ですが、虫や獣の侵入を防ぎ、通気層をクリアに保つ効果が。
特に長野県のように自然が身近にある環境では、ぜひ付けておきたいパーツですね。

断熱工事完了!

これで断熱工事が完了しました!
グラスウール120mm + ネオマフォーム111mmの壁面構成、パッシブハウス以外ではなかなか見られないのでは。
断熱だけでなく、防水や通気の面でも工夫を凝らしているかと思います。
何かの参考になれば嬉しいです!

次回の記事では、屋根と軒天の工事について解説する予定です。
その次は木製サッシの工事風景をリポート!

パッシブハウス施工日誌、まだまだ続きます。
引き続きよろしくお願いいたします!

新津

パッシブハウスの建築状況をTwitterとInstagramで公開しています!

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