ニチコンV2Hで「元を取る」使いかたを検証してみた

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この記事は私個人のケースを元にした推計です。あくまで参考情報としてご利用ください。
シュミレーション結果に基づくいかなる損害に対しても、当ブログは責任を負いかねます。
掲載されている情報は記事が書かれた時点のものです。最新の情報をご確認ください。
V2H導入に際しては施工店さんと十分に相談することをお勧めします。
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こんにちは!
新津組 代表の新津です。

我が家で使用している蓄電システム、V2H&日産サクラについての検証記事、後編です。
前編「ニチコンV2H&日産サクラでオフグリッドに挑戦し、挫折してみた」では、V2Hがとても扱いの難しい機械だということを書きました。

今回の記事では
「どうすればV2Hを効率的に使うことができるのか?」
「V2Hを導入して、はたして初期費用の元を取ることができるのか?」

について検証していきます。

目次は以下の通りです。
長い記事なので、最後のまとめだけお読みいただいても大丈夫です!

・はじめに:前編のおさらい
・前提1:時間帯別料金の電力プランを使う
・前提2:太陽光発電の余剰分で充電する
・前提3:家を高断熱化する
・全10パターンの条件で検証
・パターンA~D:使用時間と消費電力を変えてみる
・パターンE~G:電気代を変えてみる
・パターンH~J:売電単価を変えてみる
・実際のV2H設定画面
・まとめ:V2Hは元が取れるのか?

はじめに:前編のおさらい

まず、簡単に前回のおさらいをしておきます。

・V2HでEVから住宅へ放電する時でも、約50Wの買電が必ず発生する
・充電時・放電時ともに非常に大きな電力ロスが出る(実測で23~52%)

というのがV2Hの特性です。

そのため、使い方を誤ると
「V2Hの導入によって電力会社から買電する量は減るが、太陽光発電余剰分の売電量がそれ以上に減少するため、月の収益はむしろ悪化する」
という事態が起こります。

V2Hの使いかたのコツは
・充電や放電はできるだけ短時間で行う
・買電単価、売電単価によって充電・放電する時間帯を調整する

と、書きました。

では具体的にどうすれば良いのか。以下の項にて解説していきます。
V2Hを使いこなすための前提条件を挙げ、全10パターンの収支シミュレーションで検証します。

前提1:時間帯別料金の電力プランを使う


(画像は中部電力さんのサイトからお借りしました)

V2Hを使いこなすための最初の条件は「時間帯別料金の電力プランを使う」こと。
EVから住宅へ放電を行うのは、電気代が高くなる時間帯を中心とするのです。

中部電力「スマートライフプラン」、東京電力「夜トクプラン」、関西電力「はぴeタイムR」など、各社で名前は違いますが、どの電力会社でも時間帯で電気単価が変動する料金プランを用意しています。
大手電力会社以外、いわゆる「新電力」各社から提供されている市場価格連動プランでもOKです。

各プランで若干の違いはありますが、社会活動が活発な時間帯ほど電気代が高くなる傾向にあります。
例えば私の使っている中部電力「スマートライフプラン夜とく」の場合、7時~21時の電気代が高く、21時~翌7時までの電気代は安く設定されています。
この場合、21時~翌7時はV2Hによる放電を行わず、電力会社から安い電力を買電する方が、トータルで見ればお得となります。

前提2:太陽光発電の余剰分で充電する

EV(電気自動車)への充電は、太陽光発電の余剰分を使うのが基本です。
放電モード(PV余剰充電機能ON)もしくはグリーンモードをタイマー設定して使います。

V2Hの長所として、6.0kWの高速充電が可能というところがあります。
それだけの余剰電力を安定して確保するためには、充電ロスも考慮して太陽光発電パネル8.0kW以上は必要になってきます。
私の自宅はパネル12.0kW、パワーコンディショナー9.9kWですが、パネルを15.0kWくらい載せても十分元が取れると感じています。
平均的な4.0~5.0kWでも大きな問題はないと思いますが、EVを運用するのなら太陽光発電は多ければ多いほど便利です。
V2H導入に合わせてパネルを増設するのも検討に値するかと思います。

車両のバッテリー容量も大きければ便利ですが、小さくても実用上の支障はないかと思います。
我が家の日産サクラでは充放電に使えるのは16~18kWhほど。この記事で推奨する使い方であればこの容量で十分です。
V2Hに対応している車のうち、好きなものを選べばOKです。

前提3:家を高断熱化する

住宅で最も電力を消費するのが暖房です。
寒くなる時期は太陽光発電の出力も落ち、EVのバッテリー効率も下がってしまいます。
暖房を大出力で使い続けるとせっかく貯めたバッテリー残量もあっという間に底を突いてしまいます。
そのため、家を高断熱化して冬の消費エネルギーを削減することが極めて重要になります。

新築であれば断熱等級6以上&パッシブ設計で。
今住んでいる家には窓リノベ補助金を活用した内窓設置を行いましょう。
V2Hの導入よりも圧倒的に費用対効果が高いのが断熱です。

全10パターンの条件で検証

条件をさまざまに変えたA~Jの10パターンで収益シミュレーションを行ってみました。
買電する電気代の単価、余剰売電の単価、V2Hで放電する時間、放電時の家庭内の消費電力。
以上の4要素によって最終的な収支が大きく変わっていきます
計算を簡単にするために、充放電ロスは実測平均値で固定しています。

Aパターンを例に、計算方法を説明します。
(長いので読み飛ばしOK。次項から最終の収支メインで解説しますので)

・17時から翌3時までの10時間、EVから住宅へ放電すると仮定。
・この間の家庭の電力消費は1000W。
・放電ロスを466Wとすると、家庭消費分と合わせて1466W。
・つまり、放電に必要なEVバッテリー量は、10時間で14.66kWh。
・バッテリー14.66kWhを太陽光余剰で充電することを考える。
・充電ロス率を平均で28.02%とすると、充電するのに必要な電力量は20.37kWh。
・放電によって、買電量を9.50kWh節約した。※(電力消費1000W-逆流防止買電50W)×10時間
・充電によって、本来得られるはずだった売電量が20.37kWh失われた
・電気代の単価を25.67円/kWhとすると、節約額は243.9円
・売電単価を17.0円/kWhとすると、失った売電収入は346.2円
・V2Hの待機電力は1日あたり0.36kWh。上記単価で9.2円の支出
・差し引きで、1日あたりの収支はマイナス111.6円、年間でマイナス40,738.1円
※電力単価は中部電力:従量電灯Cの120kWh~300kWhのもの。売電単価は2022年度のもの。

パターンA~D:使用時間と消費電力を変えてみる

パターンAは長時間のダラダラ運転という、V2Hが最も苦手とする「やってはいけない」使いかた
(このパターンで利用しているユーザーさんが一番多いかもしれませんが…)
収支も年間で約40,000円のマイナスになってしまいました。

パターンBは放電時間を10→4時間に、消費電力を1000→2500Wに変更したもの。
17時~21時の間で照明・テレビ・IHコンロ・炊飯器・電子レンジ・食器乾燥機などキッチン周りを中心に使う想定です。
これだけで年間収支がパターンAのマイナス40,000円からプラス3,800円に大きく改善しました。
※電気代は、私が実際に契約している中部電力スマートライフプランの17~21時&CO2フリーオプションの価格

パターンCは放電時間を4時間、消費電力が3500W
洗濯乾燥機・ゲーム機・パソコン等をフルに使えばこれくらいは消費しそう?
年間収支はプラス14,387円です。

パターンDは放電時間を6時間に伸ばし、消費電力は3500W。
暖房、冷房・除湿、ハイパワーのゲーミングPC等を使い続ければあるいは…というところ。
年間収支は23,604円のプラスですが、必要バッテリーが23.80kWhと大きいので、大容量のEVが必要になってきますね。
電気代の高い時間帯も実際は6時間に満たないので、あまり現実的なパターンではないかも知れません。

パターンE~G:電気代を変えてみる

放電時間4時間・消費電力2500WのパターンBが現実に即していそうなので、それをベースに検証を続けます。

パターンEは電気代が値上がりしたケースを想定。
2023年1月~2024年5月は政府の激変緩和措置が効いていたため、電気代が3.5円/kWh低く抑えられていました。
2024年6月からは再エネ賦課金の上昇とも合わせ今までよりも5.59円/kWh値上がりします。
この場合の年間収支はプラス23,146円です。
全10パターン中、最も標準的なケースではないかと思います。

パターンFは電気代が更に値上がりした場合。
国際情勢の不安定化、急激な円安、インフレの進行など、今後電気代が上がることはあっても下がることは無いと思います。
電気代単価が45円/kWhまで上がると、V2Hのメリットは年52,779円にもなります。
約12年でV2H設置費用63万円の元が取れる計算になりました。

パターンGは電気代が安い場合。夜間に放電した場合がここに当たります。
収支は大きくマイナスになるため、これもやはり「やってはいけない」使いかたです。
繰り返しになりますが、電力が安い時間帯はV2Hでの放電をしないようにしましょう。

パターンH~J:売電単価を変えてみる

パターンHは卒FIT(=10年の固定価格買取制度が終了)によって売電単価が大きく下がった場合
激変緩和措置が効いている電気代にも関わらず、年間収支は64,046円。10年足らずで元を取ることができます。
表にはありませんが、緩和措置が終了した場合の電気代では年間収益が83,307円となり、約7年半で元を取ることが可能になります。
卒FITのタイミングでV2Hを導入するのはかなり有効ということが分かりますね。

パターンIは逆に売電価格が高い場合。24.0円/kWhは今から5年前、2019年度時点の単価です。
このパターンの収支はマイナス38,226円。このくらいの売電価格があれば、まだV2Hを導入する必要はなさそうです。
ちなみに損益分岐点を(強引に)算出すると、「電気代単価が売電単価の1.74倍」というのが目安のようです。
(例:売電単価17.0円/kWhに対して電気代単価29.58円/kWhになると、収益がプラスマイナスゼロになる)

パターンJはV2Hを使ううえで理想的な条件を揃えてみました。
電気代が上がり、卒FITで、電気代の高くなる4時間に大きな電力を消費する。
この場合の収支は、なんと年間139,913円!4年半でV2Hの設置費用を回収することができます。
このパターンに当てはまる人は積極的にV2Hの購入を検討しても良いと思います。

実際のV2H設定画面

この項は実際にニチコンV2Hを使っているユーザーさん向け
現在の私のV2H設定について解説します。

①朝7時~9時にタイマー放電(PV余剰充電)。

放電モードにして動かしますが、太陽光発電の余剰が出ればEVへの充電に回ります。
(放電モードを充電に使う、というのがややこしい)
大容量の太陽光パネルがあり、冬以外の季節であれば、この時間から6kW近い充電が可能。朝走る分には十分なバッテリー残量を確保できます。

EVが満充電になれば余剰電力が売電されるようになります。
売電時にはV2Hによる電力ロスは発生しないので安心です。

②9時~16時にグリーンモード充電。

太陽が高く登っている時間帯はグリーンモードを使います。
12.0kWのパネルがあると天気が小雨でも2.0kWくらいは発電してくれるので、細々ながらも余剰充電が可能です。
晴れていれば、15時くらいにサクラを充電開始しても、17時までには満充電になることがほとんどです。

充電に「放電&PV余剰充電モード」「グリーンモード」のどちらを使うのか迷うことがあります。
実測した限り、両モードの充電効率(充電ロス率)に違いはありません

放電&PV余剰充電モードでは放電停止充電率(初期設定では10%)に到達すると、放電モードそのものが起動しないため例え余剰電力があっても充電がされません。
グリーンモードは余剰電力があれば放電停止充電率からでも充電スタートしてくれますが、太陽に雲が掛かるなどして余剰電力の有り/無しが何度も切り替わると、モード自体が停止する仕様になっています。
お互いの短所をカバーするため、両モードは併用するのが良いかと思います。
タイマー放電が2パターン設定可能なので、タイマー放電の間にグリーンモードを挟み込むように使う、というのがニチコンの推奨なのかも?

なお、PV余剰充電の充電停止充電率は100%のまま弄らないことをお勧めします。
(通常充電の停止充電率とは違い、アプリでは操作できないので触れることも稀だとは思いますが)
あくまでサクラの場合ですが、実際の電池残量が100%にならないよう制御が入る(車両コンソール上では100%になってもSOC=State of Charge100%にはならない)ようです。
そのため、電池の負担を気にして100%充電を避ける必要はありません。
逆に、停止充電率を90%などにしてしまうと、「充電が終わっていない」判定になるのか、充電と放電を繰り返す=充放電ロスが延々と出続けてV2Hの効率が著しく落ちてしまうことになります。
車両側の残量表示がおかしくなることもありますが、走行距離に影響はありませんし、よくあることなので気にしないようにしましょう。

③16時~21時に再度タイマー放電(PV余剰充電)。

季節や天気にもよりますが、おおむね17時ごろから余剰電力がなくなり家への放電へ切り替わります。
この時間帯はたくさん電力を使うほどV2Hの効率が高まります。(無駄遣いする必要はないですが…)
太陽光発電を載せているユーザーさんは、晴れた日中に「電気を好きなだけ使える」感覚があるかと思います。V2Hがあるとその感覚が日没後も続きます。
V2Hは蓄電池というよりも、太陽光発電の効果を数時間伸ばす機械と捉える方が良いと思っています。

④(厳冬期のみ)21時~22時にタイマー充電。

冬はV2Hシステム全体の効率が大きく落ちるため、設定を若干変える必要があります
私の場合、1月~3月くらいは、朝の運転時の走行可能距離を確保するため21時~22時だけタイマー充電をONにしていました。
朝7時~9時のタイマー放電をOFFにすることもありました。
車としての運用と蓄電池としての運用を両立させる必要があるため、冬は本当に難しい時期です。

HEMSで計測した2024年4月11日の消費電力グラフです。
発電・蓄電・買電が色分けされていて、一日の流れが分かりやすいですね。
7時と14時に大きく消費が増えているのが、太陽光発電の余剰電力によるEVへの充電です。
17時~21時までは蓄電(=EVからの放電)で使用電力を賄えています

こちらは同日の買電量のグラフ
買電が発生しているのは、基本的に電気代が安い時間帯のみです。
それ以外の時間の小さな買電は、V2Hの逆流防止が働いているためですね。
この日の消費量26.281kWhに対し、買電は3.997kWh。電力消費の85%を削減することができました。

まとめ:V2Hは元が取れるのか?

記事の内容をまとめます。

「どうすればV2Hを効率的に使うことができるのか?」
 ・家を断熱し、大容量の太陽光パネルを載せ、発電の余剰分で電気自動車を充電する
 ・時間帯別 or 市場価格連動型 の電力プランを契約し、電気代の高い夕方を中心に短時間・高出力で放電する
 ・電気代の安い時間帯は放電を行わない

「V2Hを導入して、はたして初期費用の元を取ることができるのか?」
 ・卒FIT、かつ、2024年6月の電気料金であれば、約7年半で元が取れる(可能性がある)
 ・電気代が上昇するほど、初期費用回収までの期間は短くなる

V2Hは高価で扱いの難しい機械ですが、条件や使いかたによっては費用回収も見込めそうです。
・V2H本体とEV両方で補助金が充実しているため、同容量の定置型蓄電池と比較して、低コストで蓄電システムを構築できる。
・全負荷型の蓄電システムであるため、停電時でも(太陽が出ていれば)家全体のコンセントを普段通りに使うことができる。

というのも大きなメリットです。
V2Hの長所と短所を十分に把握した上で、導入や運用を行っていきたいですね。

今回のブログは以上となります。
あくまでひとつの参考情報として、当記事の内容を活かしていただければ嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!

新津

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