パッシブハウス施工日誌13 ~気密測定編~

こんにちは!
新津組 代表の新津です。

またも前回から間が空いてしまい、すみません。
パッシブハウス建築のリアルをお伝えする施工日誌の第13弾。
今回のテーマは「気密測定」です。

認定パッシブハウスでは、なぜ気密性能が重要になるのか?
気密測定はどうやって行うのか?
測定の結果、どれくらいの気密性能があったのか?

これらについて書いていきます。
今回もぜひ最後までお付き合いください!

過去の施工日誌は以下のリンクよりご覧いただけます。

施工日誌01 概要編
施工日誌02 地盤調査編
施工日誌03 地盤改良編
施工日誌04 鉄筋工事編
施工日誌05 基礎・コンクリート工事編
施工日誌06 基礎断熱・発泡ガラスボード編
施工日誌07 土台敷き・基礎内断熱編
施工日誌08 建方(建前)編
施工日誌09 充填断熱編
施工日誌10 付加断熱編
施工日誌11 屋根工事編
施工日誌12 窓工事編

はじめに:住宅の気密性能はなぜ重要なのか

大前提として、断熱された現代の住宅において気密性能はとても重要です。
これはパッシブハウスでもそれ以外の建物でも変わりません。
理由としては、大きく分けて次の4つが挙げられます。

1.断熱の効果を発揮するため
断熱と気密はセットで行わないと十分な効果を発揮しません。
気密性が弱く、断熱材を詰めた壁の中に空気が流れてしまうと、断熱材本来の性能は著しく低下することに。
また、いくら断熱性が高くても、低気密による隙間風があると室内の上下温度差や不快な対流の原因になってしまいます。
気密性と断熱性を高めることで、温度ムラが少ない快適な居住環境が実現しやすくなります。

2.壁内結露を防止するため
上とも重複しますが、壁内に空気が流れると壁内結露が発生することがあります。
冬の室内の暖かく湿った空気が壁の隙間から外に出る際に急激に冷やされ結露し、断熱材や木材を濡らすのです。
壁内結露はひとたび起こってしまうと発見することが難しく、カビやシロアリなどの重大な被害にも繋がることが。
気密性は建物を長持ちさせる上でも重要になってきます。

3.熱損失を少なくするため
隙間から逃げる空気が大きくなると、それだけ逃げる熱量も多くなります。
直接外に出ていく熱だけでなく、壁内気流による断熱材の性能低下も熱損失に繋がります。
気密性能を高めることで、冷暖房を効率的に動かせるようになり省エネ性を高めることができます。

4.計画的な換気をおこなうため
気密性能の低い建物は、どこにあるのか分からない隙間から常に空気が出入りする状態。
この空気の量(自然換気量)は風向きや室内外の温度差によって大きく変動し、コントロールすることができません。
計画通りの換気を確実に行うためには、気密性を高めて外気の影響を抑えることが重要になります。

非常に重要な気密性能ですが、その数値は現場で気密測定をすることでしか把握できません。
住宅を建てる際には必ず測定することをオススメします。

パッシブハウスの気密性能基準

認定パッシブハウスに要求される気密性能は
「50パスカルの加圧および減圧時の1時間あたりの漏気回数(ACH)が0.6回以下」
となっています。専門的な文言で分かりにくいですね。

日本で用いられるC値(相当隙間面積)に換算すると、おおむね0.2~0.3c㎡/㎡になります。
国内の寒冷地で望ましいとされる気密性能が1.0c㎡/㎡なので、その5分の1ほどの隙間しか許されません。
気密性能の世界基準と比較しても、トップであるデンマーク&オランダの基準値よりも2倍ほど厳しい数値です。

なぜここまで厳しい気密性能が必要かと言うと、パッシブハウスにとって計画換気がとても重要であるからです。
パッシブハウスの定義は「換気風量で冷暖房エネルギーを建物全体に届けることができる」こと。
換気風量はエアコンやストーブの風量よりもずっと弱く、部屋で過ごしていて風を感じることはほとんどありません。
風量が強く騒音や気流感のある冷暖房機器には極力頼らず、換気の空気をわずかに温める/冷やすことで室内環境を整えるのが「パッシブ」の意味でもあります。

性能を高めた結果、最適な温度・湿度に調整された空気が、感じ取れないくらいの風量で家の中を循環することになります。
そのためパッシブハウスは優しく包み込まれるような快適性を実現することができるのです。

測定準備

前置きはここまでにして、実際の測定の様子を見ていきましょう。

気密測定は、測定機械を使って建物全体に圧力を加え、隙間から漏れる空気の量(通気量)を測定するものです。
測定のタイミングとしては一般的に2回。
断熱・気密工事が終了した段階での「中間検査」
工事全体が完了した段階での「完成検査」です。

JIS(日本産業規格)の定義では完成検査が基本です。
が、漏気している箇所を見つけてリカバリー工事ができるという理由で、中間検査も広く行われています。
国際規格であるパッシブハウスの基準では、中間検査でもOKとしているようです。
今回はこの中間検査を行っていきます。

気密測定(減圧法)

日射や風速の影響を避けることのできる位置の、できるだけ小さい窓に測定機器を設置します。
今回は北側寝室の窓を選びました。

玄関ドアや窓などの開口部は普通に閉めた状態に。
換気口、レンジフード配管、給排水管、電気配線管はテープで目張りをしておきます。
配管そのものは目張りしますが、配管が壁を貫通する部分は目張りしてはいけません。

測定には「減圧法」「加圧法」があります。
減圧法は室内側に測定機器を設置し、外へ向かってファンで空気を送り出して圧力を掛ける方法。
加圧法はその逆で、室外から空気を送り込みます。

圧力差を10~50パスカルまで高めていき、圧力ごとに5回測定。
測定5回が1セットで、それを3セット繰り返していきます。

発煙筒で隙間をチェック

そうして得られた測定結果はどうかと言うと…!?

なんと、初回で目標数値を簡単にクリアしてしまいました!
測定結果のC値や漏気回数(ACH)はのちほどお伝えします。

実は、隙間が見つかった場合に備えて大工さんにもスタンバイしてもらっていました。
補修はまったく必要なく手持ち無沙汰になってしまったので、ひとつ実験をしてみることに。

隙間探しのために準備していた「発煙缶」
「ガイアの夜明け」の番組中でも活躍(?)した道具です。
これを使って、無理矢理に漏気箇所を見つけてみます。

通常の測定を上回る100パスカルほどに圧力を高めます。
レンジフードを最大運転するよりもずっと強く、普通に暮らす上ではまず起こらない状況です。
この状態で、外のあちこちから煙を浴びせてみました。

結果として、煙がわずかながらに侵入してきたのは2箇所。
人が出入りするために使う、玄関ドア&大開口スライディング窓でした。
当然といえば当然ですが、大きい面積で開く建具が弱点となる訳ですね。

とは言え目を凝らしてやっと見つけられるだけの煙の量。
日常生活でここから空気が漏れる量はゼロに等しいかと思います。
なかなか興味深い実験でした。

気密測定(加圧法)

続いて、加圧法での測定。
測定機械(送風機)を建物の外に設置して、室内に風を送って圧力を掛けます。

JISは減圧法のみでOKとしていますが、パッシブハウス基準では加圧法も必要です。
一般的に加圧法の方が結果が悪く(隙間が大きく)出るようです。
相当隙間面積は加圧法の方が20%ほど大きくなる傾向があります。

特に玄関ドアで結果が悪くなることが多いようです。
ドアの多くは外開きなので、室内側から押されると隙間ができやすいということですね。

減圧法に続き、加圧法でも基準値を一発クリア!
加圧法にすることによる測定値の悪化もほとんど見られませんでした。
ドアや窓の気密性能の良さが表れているとも言えますね。

木製サッシ:キュレイショナー(山崎屋木工)
https://curationer.jp/

玄関ドア・勝手口:スペリオル(コシヤマ)
http://www.wk-koshiyama.co.jp/superior.html

気密測定の結果

まずは減圧法での測定結果です。
C値は0.05c㎡/㎡
50パスカル時の漏気回数(ACH)は0.17回でした。

次は加圧法での測定結果。
C値は0.06c㎡/㎡
50パスカル時の漏気回数(ACH)は0.17回です。

パッシブハウス基準と比較して、隙間面積は4分の1、漏れる空気は3分の1ほどになっていることになります。
私たちの想像を上回る素晴らしい結果です!

今回対応していただいた測定士さんは、日本全国の高気密住宅を試験して回っている会社さん。
その方の経験上でも、過去最高の記録となったそうです。

パッシブハウスの燃費シミュレーションは、ACHの実測値を入れて計算します。
測定結果が良ければそれだけ認定上も有利に働く(冷暖房需要を満たすのが楽になる)のです。
これは嬉しい誤算ですね!

まとめ

気密測定の結果は、C値0.05~0.06c㎡/㎡。ACH0.17回。
減圧法・加圧法ともに予想以上の好成績となりました。
これだけの気密性能は、日本全国見渡してもなかなか無いかと思います。

気密測定はパッシブハウス認定の最初のハードル。
ここを無事に通過したことで、認定に向けて本格的に進みはじめることができます。
次の大きなハードルは「風量測定」
これについても、次回以降の施工日誌でレポートさせていただきます!

最後までお付き合いいただきありがとうございました。
ではまた!

新津

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